労働力調査から考える【2017年5月度】

2017年5月度の労働力調査が発表になりました。

 

メディアでは、完全失業率が前月に比べ0.3ポイント上昇し3.1%になったことで、「失業率の悪化」という見出しが躍ってますが、本当に失業率が悪化していると見ていいのでしょうか。

 

今回は遅ればせながら、5月度の労働力調査を元に、労働市場の流れを述べてみたいと思います。

 

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| 就業者数と雇用者数の変化から見えてくる状況

5月度の数値を見ていくと、就業者数は前月比3万人の減少、雇用者数は、逆に前月比3万人の増加となっています。この内訳を見ると、男性は確かに減少していますが、女性の雇用者は逆に6万人増えています。

 

このことが意味していることは「女性が仕事を探し、且つ採用されている。」ということです。

 

買い手市場は、結婚している女性の求職者を企業は敬遠しがちでした。

理由は単純に、妊娠による退職、子どもさんがいれば学校行事や体調不良の際に、欠勤の確率が高いので、業務に支障が出て面倒くさいというのが企業の本音でした。

 

しかし、中小企業の7割、サービス業の8割が人手不足の状況下にありますので、企業としても、欠勤や出産による退職も仕方がないと、ある意味割り切って女性の採用に走っていることが、女性の雇用者数の変化から見て取れます。

 

| 完全失業者数が増えている背景にあるもの

5月度の完全失業者数は205万人、前月比19万人増え、失業率が3.1%、前月比0.3ポイントの上昇です。これは、景気の影響なのでしょうか、数値の内訳を見ていくと高い確率で違うということが予測できます。

 

5月度は、自己都合の離職が8万人増え、同じく新たな求職者も8万人増えています。

非自発的な退職も6万人増えていますが、60~69歳の人口が1820万人いますので、大部分は定年退職後、ハローワークで失業給付の手続きをとったことで、数字に反映されたものであると推察されます。

 

自己都合の退職が増えているというのは、転職市場が活況を呈し、労働条件など魅力のある仕事が巷に溢れているので、今の仕事にしがみつく必要性を感じずに退職している人の割合が高くなっているためです。

 

また、新たな求職者が増えているのも、この状況下であれば、自分もよい仕事に就ける可能性が高いと考え、仕事を探すことを諦めていた人たちが再び就職活動を始めた数字が反映されたものです。

 

| 5月度の調査から見える今後の労働市場の流れ

今後の労働市場の流れとして、自社社員から、この会社はブラック企業であると判断された企業からは社員が次々と逃げ出し、「退職者>応募者」の状況下では採用に苦戦、残された社員の負荷が増え、更に退職を促し事業運営に遅かれ早かれ影響が出始めます。

 

また、社員採用に苦戦している企業の多くは、早々に主婦層を含めた女性の採用強化に舵を切っています。ただ、家事と仕事を両立させたい女性の働き方の希望は、個々人の状況で大きく変わってきますので、その希望に沿うことが出来る組織の弾力性を求められる流れは強まってきます。

 

| 求人者・求職者が理解した方がよい労働市場環境

仕事をしながら転職を検討している方は、人手不足の状況は続きますので、あまり慌てずに準備をすすめていく方がベターです。また、いま現在仕事を探している方は、一人に対して1.5社の募集がありますので、慌てて仕事を決めずに多くの情報に触れて選択した方が、より悔いのない結果に繋がるでしょう。

 

逆に、人を必要としている企業が理解しておかねばならないのは、一部の企業を除き「退職者数>応募者数」の状況下に置かれるので、1.退職者を出さない。2.応募者数を増やす取り組み。3.組織における人員体制の再検討。を早急にすすめていくということです。

 

いまなら、まだ女性、中高年層の採用は可能ですが、あと1,2年も経てば、今以上に採用が厳しくなってくることは、少子高齢化が進む国内においては自明の理です。企業にとって、採用するための残された時間は、あまり残されていません。一日も早く置かれている状況を理解して、対応を図ることが必要になるでしょう。

 

「Google for jobs」で変わる日本の転職市場

Googleが、ついに求人検索の分野にも参入してきました。

 

現時点(2017年7月)ではアメリカのみのサービス開始ですが、GoogleのCEOであるピチャイ氏は、ゆくゆくは他国でも利用できるようにすると語ってますので、日本でも将来的には、サービスが利用できるようになると思われます。

 

今回は、この「Google for jobs」が日本でサービス開始になったときに、求人活動がどのように変わってくるのか、私見を述べてみます。

 


Find your next job, with Google

 

Google for jobsの基本的な仕組み

まずは簡単に、「Google for jobs」について説明してみます。

 

この仕組みは、Googleが求人に関する独自サービスを行うものではありません。

ネットに掲載されている様々な求人情報をGoogleが集約し、求職者の希望する労働条件に合う個別の求人案件(求人サイトや企業ホームページなど)に誘導してくれるサービスです。

 

尚且つ、希望条件に合致する求人情報が新たに出てきたときには、随時メールで通知をしてくれる至れり尽くせりの仕組みです。

 

 

| 日本のネット求職の現状 

通常、求職者がインターネットを使って仕事を探す際には、リクナビマイナビタウンワーク、indeedなどの求人サイトを利用したり、企業ホームページの募集要項から応募することが多いですが、表示された求人内容の精査や、ひとつひとつに情報を入力をするといったような地道な作業が必要になります。

 

そして、この作業が実に面倒です。

 

例えば、求人内容を確認するだけでも、複数のサイトに求人を出して目につきやすい企業もあれば、特定のサイトにしか求人を出していない企業もあります。この為、多くの求人を比較してから応募しようとすれば、複数のサイトを小まめにチェックする必要が生じ、求職者からすれば面倒なことこの上ありません。

 

この求職者が行う一連の作業を、Googleでは無駄な手間と考え、一元的に求職者に仕事を案内する仕組みとしてGoogle for jobsが始まりました。

 

Google for jobsの利点 

この仕組みの優れているところは、例えば「自宅の近くの仕事」を探したい場合、従来であれば求人情報の就業場所を確認し、自宅からの距離や通勤手段や時間を自分で調べる必要がありました。これが最初から自宅近くの仕事のみを表示してくれます。

 

また、求人情報は日々更新、改廃されます、例えば後日、自分の希望にマッチする求人がサイトに掲載されると、その情報をメールで知らせてくれるので、常に自ら求人情報を追いかける必要もなくなります。

 

| 日本導入で起きる変化

では、実際にこのサービスが日本で利用できるようになると、どのようなことが起こるでしょうか。長期的に見ると、今の転職市場の在り方そのものが大きく変わる可能性を秘めています。

 

従来の求人サイトでは、より多くの求職者にサイトを見てもらうこと、すなわち利用者の数を増やすことで、マッチングする確率を高めていくという仕組みでした、その為に、テレビコマーシャルなどのメディアを使い露出を高めることで、サイト利用者数を増やしていました。

 

しかし、Google for jobsでは、この利用者の数を増やす必要はありません。もともとGoogleを利用して検索をする人の数が、月間5000万人弱いますので利用者は十分です。

 

と、同時に主導権を持つのが、求職者ひとりひとりになります。

 

例えば、自宅周辺の仕事を検索した場合に、どの求人サイトの情報が表示されるかは、求職者の住所という個人的な要素によって左右されるようになります。尚且つ、求職者の希望にマッチする情報を、膨大な求人情報の中から選りすぐって表示してくれるので、今までは、見向きもされなかった求人情報に日の目があたることにもなります。

 

大手求人サイトを運営している企業にとっては、ビジネスモデルが成り立たなくなる危険性があり、逆に弱小サイト運営会社や、採用に苦戦していた企業にとってはチャンスが拡大します。

 

また、求職者の立場からすれば、複数のサイトを確認し情報を自分なりに精査していくという面倒な手間が一度で済むので、こんなに楽なことはありません。

 

言い換えると、採用する側が力を持っていた買い手市場から、求職者が求人している企業を選ぶ売り手市場の流れが加速すると考えられます。

 

労働力人口が減少傾向にあり、中小企業の74%が人手不足である日本において、社員確保に企業の人事担当者が頭を悩ませている昨今、このGoogle for jobsという黒船は、日本の求人・求職市場にどのような影響を与えていくのか、これからの動向に注視し見守っていきたいと考えます。

「ジョン・ウィック:チャプター2」から考える会社の変なルール

ジョン・ウィック:チャプター2」が、2017年7月、日本公開されました。

 

劇中で、キアヌ・リーブスが演じるのは、ジョン・ウィックという名の伝説の殺し屋です。この主人公は、コンチネンタルという殺し屋達のギルド(同業者の自治団体)に属しています。

 

このコンチネンタルは、世界各地で殺し屋達が休息するためのホテルや、武器の調達、情報収集などのサポートを行う巨大な組織として描かれているのですが、この組織には、厳守すべき掟があり、ひとつは「コンチネンタルのホテル内で仕事(殺し)の禁止」と、もうひとつは「血の誓約は必ず実行せなばならない」というもので、このルールを破ったものには、死の制裁が待つという厳しさです。

 

この2つのルールに翻弄されることになるのが、キアヌ・リーブスこと主人公のジョン・ウィックなのですが、映画の詳細については、専門的なブログにお譲りするとして、僕は劇中に出てくる「独自の決まり事」という視点から、日本の会社が定める、変なルールについて書いてみたいと思います。

 


映画『ジョン・ウィック:チャプター2』予告

 

| 会社の定める変なルール

自動車部品を作る業務を請負っている下請け企業で目にすることが多いのですが、納品先である自動車会社が作る車種で通勤している人は、会社の近くの駐車場を利用してよいが、他社の車種で通勤する人は、会社から離れた、遠くの駐車場を利用しなければならないという、そんなルールを定めている企業を目にします。

 

そのような企業に伺ったときには必ず、なぜこのようなルールを定めているのかを質問するようにしているのですが、発注元である自動車会社のおかげで会社が成り立っているだの、近くに停めたいのであれば発注元の自動社会社の車を購入すればよいだの、下請け根性丸出しの返事が返ってくることが多く、また質問に答えてくれる方々も、何を当然のことを質問しているんだ、という雰囲気です。

 

| 変なルールは「採用」を苦戦させる 

始業の1時間前には出社して社内の掃除や雑務をするルールや、終業時間になると、タイムカードを一旦押してからサービス残業を始めるなどの、完全に労働基準法上の問題があるような規則を設定している黒い会社は別にしても、通勤の車種によって駐車場の場所を変えるようなことは、その会社の人事にとって、メリットがデメリットを上回っているのでしょうか。

 

社員採用を行うという観点からいえば、明確に「デメリットしかない」というのが答えです。

 

理由を簡単に述べてみます。社員の募集を行う際に、他車種に乗っている求職者からすれば、近くの駐車場に停めれないというのは、不利益しかありません。

 

仕事が少ない時代であればいざ知らず、これから将来に渡って採用が難しくなる一方の現在において、他社の車に乗っているから遠くに停めろなんて規則がある会社は、求職者から見れば、駐車場ひとつにこんな規則があるのだから、入社したらどんな理不尽な規則を押し付けられるのか分からないと判断され、選択肢から排除されるだけです。

 

その辺りを理解している経営者の企業では、社長を含め会社の上層部の駐車場を、あえて端の方にし、建屋近くを社員達に開放することで、社員を大切にするという雰囲気を作っている例もあります。 

駐車場の一件を見た時に、求職者はどちらの企業で仕事をしたいと考えるのでしょう。このような変なルールを社内で作っていないか、採用に苦戦している企業の経営者や人事担当者こそ見直してみるべきだと、「ジョン・ウィック:チャプター2」に出てきたルールから連想し述べてみました。

 

ジョン・ウィック:チャプター2の感想

主人公、ジョン・ウィックは、「掟」という仕組みから自由になることを望み、決まりに背いた為に、より仕組みに絡み取られ自由を失うことになるという結果を招きます。

 

仕事でも、会社から独立してフリーになって自由を得たつもりでいたのに、気が付くと会社にいた時よりも不自由になっていた…。そんな話はよく耳にします。

 

映画を観ているときでさえ、人事の出来事に関連付けて考えてしまう僕自身も、人事という魔物に絡み取られている一人なのかもしれません。

人事学の事始め

はじめまして

人事コンサルタントとして15年弱の経験を積んできた、とある人事のコミュニケーターです。

 

仕事の実績としては、東証一部上場の社員数万人超の企業から、起業して間もない社員数名の企業まで百数十社の企業との間で、採用からリストラ・再就職の斡旋に至るまで人事に関する様々な経験をさせて頂きました。

 

ただ個人的には、社員数十名から数百名規模の企業で、社員採用から人員体制構築を進めつつ、並行して社員の定着率を向上させる施策を行うことで、組織を強化し勝てる集団化する仕事が、2~3年後に結果が如実に出るので楽しくもあり、性に合っていると感じています。

 

守秘義務も多い業界なので、僕の持つ情報・経験の全てをオープンにはできませんが、使用者である多くの企業と、労働者である働く人たちが、ゆでガエルの様に徐々に破滅に向かって歩みを進めている姿を多く見ながら、力が及ばない故に手を貸すことも出来ず、そればかりか、その歩む速度を速める結果となり、忸怩たる思いを抱いたことも一度、二度ではありません。

 

それら失敗に終わった出来事に自戒の意味も込め、また良い結果に感謝いただいた多くの例も踏まえ、仕事・人事に悩む人の一助にでもなればと思い、ブログで発信してみることにしました。

 

 

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 まず、このブログを書くにあたって、僕の考え方の基本を簡単に説明します。

 

人事とは、使用者である企業側から労働者の要員管理や、賃金や評価制度のみを表す言葉ではなく、その企業で働きたいと志望する応募者から、退職後の労働者に至るまで『事業が将来にわたって継続的に続いていくための、人に関する複合的な施策全般』のことであると勝手に定義し、その施策を行うための考え方を、これまた偉そうに『人事学』と名付けています。

 

 この『人事学』を進めていくための裏付けとなっているのが、行動経済学の各種理論と、ベイズの定理を基礎とした初歩の統計学に、今までの職務上の経験から得ることが出来た経験則を加味したものになります。

 

松下幸之助氏の、企業は人なりの言葉は有名です。

 

企業が事業を続けていくうえで、未だAIや機械への置き換えが済んでいない以上、まだまだ『人』という要素が、企業の浮沈を左右しかねません。そして、その『人』そのものは、『合理的に行動するのではなく、不合理な行動をしてしまう生き物である』ということです。

 

このこと念頭に置いたうえで人事活動をすすめるために、経験則だけに頼るのではなく、行動経済学の理論、ベイズ統計の理論が必要になってくると考えています。

 

 実際に次回より、具体的な事例や各種統計データも利用して、さまざまな方向から勝手な人事学に関する記事を書いてみたいと思います。

 

社員採用や組織構築で悩んでいる企業の舵取り役の方、部下の扱いに困っているリーダー・職長クラスの方、働き方に悩む労働者の方、就活に苦戦している就活生や求職者の方、ぜひこれからお付き合いください。